捕鯨戦 解説とノベル

ノベル文

今は夜。あいにくこの久次良阪(くじらざか)の街には月明かりも星明かりも無い。見渡す限りに真っ暗な街で、今から祭りが行われるのだ。
捕鯨戦、それは街の人々にとって大事な祭りだ。一年に一度だけ夜鯨の大きい個体を捕まえて、みんなで焼いて食べる。いわゆる感謝祭みたいなものだ。
漁師たちや街人たちによって、夜を通して行われるそれは一年の中で最も盛り上がりを見せる行事だ。
そしていま、久次良阪の夜祭会場には沢山の人々が集まっていた。
会場では火が焚かれ大きな松明が燃えており、さらにあたりを明るく照らしている。
そこには空飛ぶ捕鯨船がいくつも並び、祭りの主役を待っている。あと数十分もすれば、夜鯨が群れをなして飛んでくる。
まるでここが海の中と勘違いしそうなほど、悠々とそれは飛んでくる。
その頃には捕鯨船は祭りの主役たちを乗せて、空へと飛び立つだろう。それでやっと今年の夜鯨祭が始まるのだ。

会場はまさに一丸となって、夜鯨が飛び込んでくるのを今か今かと待ち構えている。
ただ、まだ会場がざわついている理由は他にもある。
それが、これから彼らが食べることになる夜鯨だ。
通常、この大きさの個体なら捕獲した時点で食べられる部分はほとんど残らない。
あまりにも大きな鯨は骨ばっていて、ロクに食えたもんじゃない。だが、辛うじて残ったその肉を食べると、長命になると言い伝えがある。
久次良阪だけでなく街の外からも人が押し寄せ、捕鯨戦が栄える理由だ。

それはともかくとして。
空を見上げると、そこには月明かりも星明かりもない。
まるで海の底にいるかのように真っ暗で、そこに月や星が浮かんでいたらどれほど不気味だったことか。
だが代わりに、空には星明かりが広がっていた。
星明りが降り注ぎ、夜を彩る。
もし、星が見えなければ夜空は本当に真っ暗だ。街の明かりも見えず、まるで海の底に放り出されたように感じただろう。
そしてそれは、鯨たちの独擅場だ。

今は夜。あいにくこの久次良阪(くじらざか)の街には月明かりも星明かりも無い。
見渡す限りに真っ暗な街で、今から祭りが行われるのだ。

捕鯨戦、それは街の人々にとって大事な祭りだ。
一年に一度だけ夜鯨の大きい個体を捕まえて、みんなで焼いて食べる。いわゆる感謝祭みたいなものだ。
漁師たちや街人たちによって、夜を通して行われるそれは一年の中で最も盛り上がりを見せる行事だ。
そしていま、久次良阪の夜祭会場には沢山の人々が集まっていた。
会場では火が焚かれ大きな松明が燃えており、さらにあたりを明るく照らしている。
そこには空飛ぶ捕鯨船がいくつも並び、祭りの主役を待っている。あと数十分もすれば、夜鯨が群れをなして飛んでくる。
まるでここが海の中と勘違いしそうなほど、悠々とそれは飛んでくる。
その頃には捕鯨船は祭りの主役たちを乗せて、空へと飛び立つだろう。それでやっと今年の夜鯨祭が始まるのだ。

会場はまさに一丸となって、夜鯨が飛び込んでくるのを今か今かと待ち構えている。
ただ、まだ会場がざわついている理由は他にもある。
それが、これから彼らが食べることになる夜鯨だ。
通常、この大きさの個体なら捕獲した時点で食べられる部分はほとんど残らない。
あまりにも大きな鯨は骨ばっていて、ロクに食えたもんじゃない。だが、辛うじて残ったその肉を食べると、長命になると言い伝えがある。
久次良阪だけでなく街の外からも人が押し寄せ、捕鯨戦が栄える理由だ。

それはともかくとして。
空を見上げると、そこには月明かりも星明かりもない。
まるで海の底にいるかのように真っ暗で、そこに月や星が浮かんでいたらどれほど不気味だったことか。
だが代わりに、空には星明かりが広がっていた。
星明りが降り注ぎ、夜を彩る。
もし、星が見えなければ夜空は本当に真っ暗だ。街の明かりも見えず、まるで海の底に放り出されたように感じただろう。
そしてそれは、鯨たちの独擅場だ。

さぁ、鯨が飛んできた。大小さまざまの鯨たちが、まるで歌うように鳴きながら飛んでくる。
その中でも特に大きいのが、群れのリーダーだ。
彼らは他の小さな個体たちを率いている。そして彼らもまた、夜を彩る星明かりのように光を放っている。
まるで星が降り注いでいるようにも見え、この光景は神秘的とすら言えるだろう。
会場に集まった人々は、その幻想的な光景をただ静かに見守っていた。
鯨たちはしばらく飛び回るように空を泳ぐと、次第に下に広がる大きな祭り舞台へと降りて来る。
松明に照らされた久次良の街は、祭りを待つ人々でいっぱいだ。
ある者は漁師の安全を願い、またある者は初めて見る鯨に慄き、そしてまたある者は、そんな鯨たちを捕獲する漁師たちへ称賛の声をあげる。

そして、いよいよ祭りは始まる。
まず最初に行われたのは、捕鯨船の一隻が火矢を打ち上げること。
久次良阪の街から打ち上げられたそれは、ちょうど夜鯨たちが降りて来る場所付近へと落ちていく。
その明かりによって一瞬だが空が明るくなる。するとそれが合図だったかのように他の船も、一斉に火を噴き上げる。
ある船は大砲を放ち、ある船は銛を穿ち、そしてまたある船は網を放つ。
ひときわ大きな鯨は集中砲火を受け、なおも鳴きながら空を泳いでいる。
他の鯨たちも、船から放たれる火矢や銛によって傷ついていく。
それでもなお、彼らは飛び続ける。まるで空を泳ぐように、ゆっくりと。
だが次第にその動きは鈍くなり、やがて力尽きたように落ちてくる。
それが合図だったかのように、一斉に祭りの幕が上がる。

一匹の鯨が地面に叩きつけられた。飛ぶ力を失った巨体が、すさまじい音を立てて落ちていく。
それを皮切りに、一匹、また一匹と落ちてくる。会場に集まった人々は、歓声をあげていた。
ついに捕まえたのだと、口々に叫びながら喜びの声を上げる。
それはまさに、大漁旗を掲げた漁船が港へ帰って来た時のよう。彼らは獲れたての夜鯨をさばき、そのまま宴を始める。
会場は盛り上がりを見せていく。酒が振る舞われ、歌ったり踊ったりするものたちも増えてゆく。
そんな祭りの中でも夜鯨は解体されていき、人々の胃袋の中へと消えてゆくのだ。
今年の祭りも大盛況の末に幕を閉じた。

生き残った鯨たちが彼方へと消えていく。そして大きな群れとなって、また久次良阪へと戻ってくるのだ。祭りはまだ始まったばかり。次はいつ行われるだろうか。それはまた、次の話である。
鯨が鳴いている。それはまるで歌声のように聞こえた。
真っ暗な世界で聞こえるのは、ただその声だけ。
次第にその音は消えていく。後には、ただ朝日が昇るだけだ。

解説

久次良阪はアノマニマルズシリーズに登場する街の一つ。日当たりが悪く、常に真っ暗な街。

登場する怪物(心像の亜種)は「夜鯨(よるくじら)」。
久次良阪地域の周辺に生息する、空飛ぶクジラである。